Ho:YAGレーザーとは

Ho:YAGレーザーの開発の経緯
Ho:YAGレーザーの動作原理
レーザー技術 に関する研究、レーザー装置に関する各種インフォメーション
レーザーの応用に関する研究紹介 


 ・Ho:YAGレーザーの開発の経緯
 

 レーザーが開発されて以来医療分野への応用は積極的に進められて来た。中でもCO2
レーザー、Nb:YAGレーザーは、その高出力を利用して切開・蒸散・凝固・止血等のレー
ザーメスとしての研究開発が進められ、現在ではハンディタイプの小型機まで商品化さ
れている。

 レーザーメスとしてのCO2レーザー、Nb:YAGレーザーには各々、一長一短があ
る。CO2レーザーは発振効率が高く高出力が容易であり、その波長(1.06μm)
が水の高吸収帯にあるため、生体での吸収率が高く切開・蒸散能力に優れるが、その
波長で実用的に使用可能な光ファイバーがないため、複数の反射ミラーを用いた多関節
マニプレーターによって導光される。このため、現在医療分野で開発が進んでいる、イ
ンタベンション又は、非侵襲的治療法、最小侵襲的治療法への応用が限定される。換言
するならば、内視鏡下治療において利用可能な細経導光路を持たないため、レーザーの
中では最も基本特性のよい性質を持つ発振器でありながら、その応用が限定される傾向
にある。

 一方、Nb:YAGレーザーはCO2レーザー程ではないが、良い発振特性を持ち導光
路として、石英光ファイバーが利用可能であるため、内視鏡下治療を中心に広く応用技
術が開発されてきた。しかし、その波長(1.06μm)は、基本的に生体の成分である
水に対して吸収率が低く、光そのものによる切開・蒸散能力は低い。その後の開発によ
り、光ファイバー出射端にサファイア製のチップを装着し、サファイアチップを加熱し
て使用する方法により切開能力が向上したが、基本的には光の直接吸収によるところが
小さいため、必要以上のレーザー光を体内に注入していることになる。さらにNb:YAGレ
ーザーにおいて非線形結晶(KTP、ADP等)を用いて第2高周波(SHG)を発生させる
波長変換により、1.06μm 光の1/2の0.532μm (緑色可視光)を発生させ、レーザー
メスとして利用する装置が開発された。0.532μm 光は、血液中の酸化ヘモグロビンの
吸収帯にあるため、生体内の血液に良く吸収され、血液リッチな部位ではその切開蒸散
能力が向上する。

 しかし、実用的な波長変換効率は20〜30%程度であり、100W級のNb:YAGレーザー
発振器を用いても、20W程度の0.532μm 光しか得られない。
 一方で、新しいレーザー結晶が開発され、今までにない波長でのレーザー発振が可能
になった。その中でも、2.94μm に発振波長をもつEr:YAGレーザーが水の吸収ピークに
一致し、生体での吸収が非常に良かったが、実用的な光ファイバーが開発されなかった。
(石英ファイバーの透過帯域は0.3〜0.4μm)

 さらに、Tm:YAG、Ho:YAGの2μm 帯のレーザー結晶が実用化された。2μm 帯のレ
ーザーは、3μm 程ではないが水に対する吸収性が強く、石英ファイバーの透過帯帯域
にある。Ho:YAGとTm:YAGの発振波長は2.08μm、2.01μmであり、2μmの水の吸収
ピークにはTm:YAGのほうが近いが、発振効率はHo:YAGの方が良い。

 以上のように、Ho:YAGレーザーは内視鏡下手術において、不可欠な石英ファイバーが
利用でき、生体に対する吸収性が従来のNb:YAG、Nb:YAG+KTPレーザーに比して十分に
改善されたレーザー発振器である。







 ・Ho:YAGレーザーの動作原理

ホルミウム(Holmium)ヤグ(YAG)レーザーはYAG(Yttrium Aluminium Garnet:Y3A15O12)
結晶中のA13+イオンの一部をCr3+、Tm3+、Ho3+イオン置換したCrTmHo:YAG結晶をレーザー媒質
として用いた個体レーザーである。使用した結晶は、Cr、Tm、Ho原子を各0.85、5.9、0.36 atm%
のドーピング濃度にコントロールされたものであり、Ho3+イオンの5I7-5I8準位間の放射遷移を
用いて2.08μmの波長でレーザー発振する。H03+イオンの5I8準位は基底準位であり、3準位レー
ザーとして動作するが、Cr3+、Tm3+イオンを光増感材として用い室温動作での発振効率の向上を
計っている。

 励起過程はフラッシュランプの励起光をCr3+イオンの4T2帯で吸収しTm3+イオンの3F4準位は
Ho3+イオンのレーザー上準位5I7と接近している。そのため、Tm3+イオンは3F4準位と3H6準位
の交差緩和により効率よく3H4準位へ遷移し、さらにHo3+イオンへエネルギー伝達して、Ho3+イ
オンの5I7準位を増加させ、基底準位5I8との間に反転分布を生成する。実際の励起方法はXeフラッ
シュランプによるパルス光励起であり、楕円リフレクターによりCrTmHo:YAG結晶へ効率よく集光
させるフラッシュランプの駆動部分は全半導体化された高電圧充電電源、点燈用高電圧電源、高電
圧放電回路からなり、マイクロコンピュータにより制御されパルス動作する。

 レーザー出力は周波数10Hzにおいて1.7J/Pulse(平均出力17W)であり、パルス幅は350μsec
である。また、CrTmHo:YAG結晶は温度依存性があるため、冷却装置は定温型のものを内蔵してお
り、外部からの冷却水は不要である。