臨床泌尿器科 第48巻 第8号 別刷 1994年7月20日 発行 医学書院

講座 泌尿器科領域の光学的ME機器
レーザー治療の基礎技術
 

荒井 恒憲
防衛医科大学校・医用電子工学講座

A Review for Laser Therapies in Urology.
Tsunenori Arai : Department of Medical Engineering, National Defence Medical College.



キーワード:レーザー蒸散、レーザー・生体相互作用、結石破砕
 
はじめに

従来から泌尿器科領域はレーザー尿路結石破砕に代表されるように、レーザー治療の先進的応用分野であ
る。最近、前立腺肥大症のレーザー利用の発展によって、改めて泌尿器科領域のレーザー治療が関心を集
めている。本稿では今回より始まる講座「泌尿器科領域の光学的ME機器」の初回として、レーザー治療の基
礎原理を平易に解説する。泌尿器科領域では一般の外科術中にレーザーを切開、止血・凝固に使用する場
合もあるが、本シリーズでは管腔臓器である尿路系の特性を生かしたレーザ治療・光診断を主題とする(図
1)。
 
 
光(レーザー治療の意義)
1. 電気治療器との原理の比較 

外科治療器としてもっとも普及している電気治療器と電磁波(光、電波)治療器を比較してみよう。電気治療
器では神経の不感周波数(数十kHz)の高周波電流を生体内に通電する。治療原理は生体電気インピーダン
スによるジュール熱の熱効果である。電流の集中の程度(電流密度)を治療部位でもっとも大きくして用いる
が、治療部位以外にも電流が流れているので、この部分に大きい電流密度が発生して熱損傷を起こさないよ
うに、常に注意して用いる必要がある。生体内の電流集中に関してはモニター手法や対策は事実上ない。事
実、電気治療器を用いた初期の腹腔鏡視下治療では、治療部位以外の熱損傷の副作用も報告されている。
これに対して、電磁波を使うレーザー治療器やマイクロ波凝固器では電磁波を生体に向けて発射する。電磁
波は生体表面から指数関数的に減衰するので、治療効果は照射表面の近傍に限られる(用語解説参照)。こ
の原理より、生体深部の損傷は全く生じない。表面で肉眼視できる状態変化がすべて(あるいは最大の効果
を示す)と言える。したがって、これら電磁波を使う治療は状態把握が難しい経内視鏡的あるいは経カテーテ
ル的治療手段として優れている1)。
 
2. レーザー治療の利点
 
光学的治療器というとほとんどはレーザー治療器を指すことになるが、なぜ高価なレーザー光源を使用するか
について解説しよう(図2)。
 レーザ光源以外の光源では、集光を行っても光源の大きさ(白熱電球でいえばフィラメントの部分)よりも小
さい寸法の光ビームを作ることはできない。このため、直径が200〜600μmの細径光学ファイバーに普通の
光源で発生した光を伝送しようとしても、ファイバーの中に入る光のパワーは光源の発生パワーの1%以下と
なり、実用上意味を成さない。これに対して、レーザー光は集光性の高い光であり、簡単に波長程度の直径
に集光することができるから、そのパワーのほぼ100%を細径ファイバーの中に入射し伝送することができる。
細径光学ファイバーは医療用のエネルギー伝走路として優れた特性を持っている。細く柔軟で小さい曲率で
曲げることができるから、狭隘な管腔臓器に経カテーテル的にアプローチする治療に最適である。同じエネル
ギー伝送容量で比較すれば、高周波電流を送る同軸ケーブルよりも柔軟性、屈曲性において優っている。ま
た、光ファイバーは絶縁体であり、患者の生体電気安全を確保する上で有効である。レーザー光源を使用する
もっとも重要な意味はこの細径光学ファイバーによる伝送にある。
 光による治療では病変部の吸収スペクトルや薬剤に特有の吸収ピークに治療光波長を一致させれば、効率
の良い選択的な治療が可能である。この時、吸収ピークの波長は場よりも光の波長幅を十分に狭くする必要
があるが、レーザー光は極めて波長幅が狭い線(状)スペクトルを有しているので、液体相のため吸収のスペ
クトル幅が一般に広い生体組織においては上記の条件を十分に満たす。
 後述するが組織の機械的破壊を行うためには、パルス幅の短い(μs〜ns)、十分なエネルギーを持つパル
ス光を発生させる必要がある。レーザー装置はこのような短パルス光の発生に適した特性を持っている。この
特性はレーザー光そのものの性質ではなく、レーザー装置の特色である点に注意する必要がある。また、医
療応用においてはほとんど利用されないが、直線偏光の光を発生しやすいのもレーザー装置の特色である。 
 
 
 
レーザー治療の基礎原理

レーザー治療の基礎作用を図3に示す。また図4に種々のレーザーの各種応用における照射光強度とパルス
幅の条件を示した。同時に基礎作用に関しても分類した。光強度はパルスレーザーの場合ピーク光強度で示
した(用語解説参照)。

1. 生体軟組織に対する治療作用
1) 光解離作用による治療
 光が生体物質に吸収されると、生体物質の内部エネルギーとなる。光の波長が短く光子一個のエネルギー
が高い場合、吸収により生体物質を作る分子の結合解離が生ずる。この場合、生体組織は熱発生がほとんど
なく消滅していく。この過程を光解離蒸散と呼ぶ。当初、紫外線レーザーであるエキシマレーザー(ガス種によ
り数種類の波長がある)は、すべて光解離蒸散作用を示すと考えられていたが、その後の研究によりもっとも
波長の短いArFレーザー(波長193nm;パルス)を除いて、後述する熱的蒸散が支配的であろうと考えられて
いる。蒸散部分周囲の熱作用を嫌う精密な生体蒸散に用いられる。代表的応用例は角膜表面の形成術であ
る3)。

2) 光化学反応を用いた治療
 生体組織に予め光感受性の薬剤を蓄積させておき、この薬剤の特異な吸収波長に合わせたレーザーを照
射すれば、薬剤の光化学的作用を利用した治療を行える。この治療では薬剤の病変部集積性によって治療
部位の選択性を向上させることができ、周囲健常組織の最小としたい場合に得に優れた方法である。薬剤の
光科学反応は使用薬剤にもよるが、酸化力の強い一重項酸素の産生によるミトコンドリアの障害が作用機序
の一つとして考えられている。具体的に応用されているのは、膀胱、気管支、上部消化管、子宮頚部などの
癌治療と動脈硬化治療である4)。深部の治療のために、光侵達長の長い近赤外領域に吸収を持つ薬剤を使
用する。レーザーは主に色素レーザー(色素種交換により近赤外〜可視領域で可変;連続またはパルス)を
使用する。

3) 熱作用による治療
 物質に吸収された光エネルギーは、いったん物質内部のエネルギーとなるが、ごく短時間のうちに熱エネル
ギーとなる。この熱エネルギーによって組織温度は上昇する。組織温度の上昇の程度によってさまざまな治
療作用を行える。もっとも低温を用いる温熱治療では、癌の場合で44℃程度に30分加温する。前立腺肥大に
対しても温熱治療が開発されている。温熱療法を総称して hyperthermia と呼ぶが、レーザーで加温を行うも
のを特に Laserthermia と呼んでいる。他の熱源による組織加温と比較して、同じ温度で良好な治療結果が
得られるという報告もあり、その基礎原理に関して研究が行われている。使用するレーザーは組織侵達性の
高い、Nd : YAG (波長1.06μm;連続)、半導体レーザー(波長810nm近傍、種類による異なる;連続)などで
ある。組織温度が45〜60℃程度になると、コラーゲン繊維を溶融させることができるので、適当な接触、加圧
を併用するとレーザー血管吻合等の組織融着が可能である5)。最近接着面の熱発生を色素塗布などによって
増強した半導体レーザーによる組織融着の研究が盛んに行われている。組織温度が60〜70℃以上となる
と、組織を構成する蛋白質が不可逆的変性を起こし、硬化・収縮する。これが熱凝固である。出血点周囲を熱
凝固すれば止血操作となる。また凝固した組織は壊死しているので、癌治療などの組織破壊にも使用され
る。治療の性質上、深い凝固を必要としているので、Nd : YAG や半導体レーザーを使用する。
  組織温度が100℃を維持するように照射すると、生体組織の主成分である水が沸騰し水蒸気となる。細胞
膜は水蒸気の発生で破裂し、細胞質も水蒸気とともに飛散して、組織消滅が起こる。この過程が熱蒸散であ
る6)。非接触レーザー照射の場合は表面温度を効率的に上昇させるため、光侵達長の短い波長を用いる。使
用レーザーは赤外のCO2(波長10.6μm;連続)、CO(波長5.3μm;連続)、Er : YAG(波長2.94μm;パル
ス)、Ho : YAG(波長2.1μm;パルス)、また紫外の XeClエキシマレーザー(波長308nm;パルス)などであ
る。含血組織では可視光に対する光侵達長も比較的短いので、緑色のArレーザー(波長514.5nm;連続)や
Nd : YAG レーザーの2逓倍波(波長を半分(波長532nm、高繰り返しパルス);周波数を倍に変換した光)など
も用いる。サファイアの接触端子を用いて接触照射すると、接触端子表面での光の熱化を利用して熱伝導で
生体組織表面を加熱し蒸散させることができる。この場合、光として生体に照射しないので接触端子材料に透
過する波長であれば使用可能であり、普通非接触照射では切開・蒸散機能を持たない Nd : YAG レーザーを
切開・蒸散に利用することができる。

4) 機械的作用による治療
 生体組織は引っ張りによる機械的な強度が低いので、軟組織に強力な音波を起こせば、生体組織表面を引
っ張り破断によって除去できる。これを Spallation (剥離)と呼ぶ。熱発生の少ない蒸散方式として現在研究
中である6)。パルスレーザーを集光して作った小さいプラズマを組織内で作ると、組織内の特定の部分のみを
消滅させ空洞を作ることができる。空洞は周囲の組織により充満し、結果として空洞の体積分表面が陥凹す
ることになる。この照射法の応用は生体組織の光透過性が良好な眼球の治療に見られる。レーザーはパルス
幅の短い Nd : YAG レーザーを用いる。切開用のパルスレーザーを接触照射で使用する場合、蒸散時に発生
する水蒸気気泡が組織内を圧迫して、組織の解離を起こすことがある。この効果は Ho : YAG レーザーで大き
いが、経内視鏡的な組織剥離手段として使用する試みがある7)。

2. 生体硬組織に対する治療作用
 レーザー尿路結石破砕は、レーザー治療では珍しい硬組織の治療である。ほかの硬組織レーザー治療とし
ては、石灰化動脈硬化の破壊や軟骨の切開などが挙げられる程度である。
 尿路結石のレーザー破砕には、色素レーザー(波長504nm)、アレキサンドライトレーザー(波長755nm)、
Ho : YAG レーザー(波長2.1μm)などのパルスレーザーが用いられる。尿路結石はシュウ酸カルシウムやリ
ン酸カルシウムなどの無機物が主成分であり、沸点が1000℃以上と高いため生体軟組織のような熱蒸散を
行うことは難しく、実用性はない。Nd : YAG やCO2レーザーの連続レーザーを照射すると、長時間照射しても
ほとんど蒸散せず、結石全体の温度が上昇して接触している周囲の尿路組織にかえって損傷を与える結果と
なる。
 パルスレーザーによる結石破砕の原理に関しては、開発当初より研究されているが、定説はあってもいまだ
に全容は明らかではない(図5)。パルスレーザーによって発生したプラズマによる衝撃波説はもっとも一般的な
説明である8)。パルスレーザーの高い光強度では、物質中の電子が光による電界で加速され、ほかの物質
分子と衝突して、電子と陽イオンになる現象がなだれのように急激に発生する。この結果、物質は電子と陽イ
オンで満たされる。この状態をプラズマと呼ぶ。パルスレーザーで作ったプラズマをレーザー誘起プラズマとい
う。いったんプラズマが発生すると、プラズマは高温のため急激に膨張して音波となる。自然界では雷がプラ
ズマ(放電プラズマ)であり、音波発生(雷鳴)が観察される。発生する音波の振幅(音圧)が大きいので、伝播
するうちに音響非線型性の影響で音圧がさらに大きくパルス幅の短い衝撃波が発生する(用語解説参照)。結
石の内部で反射すると負圧力の波となるから、容易に破断応力の小さい部分を剥離する。
 ところで、プラズマが明らかに発生している照射状態でも結石の色調によって破砕効率に差異が生ずること
が報告されている。また、プラズマ発生に必要なパルス幅よりも長いパルスで効率的な破砕が行われている
事実もある。これらの事例は上記の破砕原理のみでは説明できず、その他の破砕機構が存在することを示唆
する。そこで、局所加熱説が提出された9)。パルスレーザ光が結石内部の吸収物質に吸収され、そこに局所
的な高温を発生するので膨張歪みにより破壊が生ずるという考え方である。
 最終的な結論は提出されていないが、これら二つの現象が両方とも生じていると考えるのが妥当であると思
われる。すなわち、結石破砕用レーザーとしては、効率的なプラズマ発生と結石吸収特性に合わせた波長選
択の両方を考慮する必要があろう。 

おわりに

生体組織は不均一な多成分系である。また沸点が100℃と低い水が主成分である。これらのことから、レーザ
ー治療の基礎作用の理解は、高沸点の単一・均一素材を扱うレーザーの加工の理解よりも難しく、いまだに
正確に解明されていない部分もある。ある治療に対して、最適な波長、照射条件を推定するために生体組織
とレーザーの相互作用解明は最重要課題であり、最近のこの分野の重要性が内外で認識されている。

用語解説

[コヒーレンス]
 レーザー光の性質を表わす言葉。和訳では可干渉性という。レーザー光は、時間的に見ても空間的に見て
も極めて揃った波である。時間的に波の揃った状態を時間的コヒーレンスが高いという。また、空間的に波の
揃った状態を空間的コヒーレンスが高いと言い表す。時間的コヒーレンスが高いことを単色性(スペクトル幅が
狭い)と言い換えることができる。また空間的コヒーレンスが高いことを集光性が高いと言い換えることができ
る。電球や蛍光燈は時間的コヒーレンスも空間的コヒーレンスも低い。
 普通の白色光源にフィルターを取り付けて一部の波長のみを透過させると時間的コヒーレンスは向上する
が、スペクトル幅を狭くすると光のエネルギーが減少するという二律背反となる。レーザー光源ではすべての
エネルギーが初めから線スペクトルで発生するので、狭いスペクトルを必要とする応用に好都合である。

[光侵達長と光吸収係数]
 光は組織に入ると急激に減衰するが、この様子はランバート・ベール則で表わすことができる。表面での入
射光強度をI0[W/cm2]、深さ[xcm]のところの強度をI[W/cm2]とすると、

I0/I=exp(-αx)

と書ける。αは減衰係数[cm-1]であり、吸収と散乱による減衰を含んでいる。波長0.75〜1.5μmの近赤外
領域を除けば、散乱よりも吸収による減衰がはるかに大きいので、αを組織の光吸収係数(μa)[cm-1]と考
えてよい。この場合、光の組織中の侵達の目安である侵達長δ[cm]は、 δ=1/α、と書ける。
 近赤外領域では、μa<μsであるので(μs:散乱係数)、δは下記の式で表わす。

δ={3μa(μa+μs)}-1/2

一例を挙げればNd : YAG (波長1.06μm)レーザーと、半導体レーザー(波長805nm)の肝臓における吸収係
数はそれぞれ、0.58cm-1、2.0cm-1、散乱係数は7.7cm-1、8.9cm-1、であり、光侵達長δは、それぞれ2.
6mm、1.2mmである。生体組織のδは5mm以下で、光は表面近傍のみに作用することがわかる。
[光強度とフルエンス]
 連続レーザーの照射条件は、光強度(パワー密度ともいう)と照射時間の二つである。光強度[W/cm2]は、
レーザーパワー[W]を照射面積[cm2]で除したものである。パルスレーザーでは、パルスの波形を示すため
に、パルス幅、ピークパワー[W]、(1パルスの)エネルギー[J]、繰り返し周波数[Hz]などを用いる。矩形のパ
ルス波形の場合はパルス幅にピークパワーを乗じたものになる。生体作用は、単位面積に一発のパルスでど
の程度のエネルギーを照射したかを示す、照射フルエンス[J/cm2]を議論に用いる。パルスエネルギーに繰
り返し周波数を乗じた値を平均パワー[W]と称して、作用の総量を議論するときに用いる。
[衝撃波]
 音波(音)の振幅(音圧)が大きいとき、物質は音圧が大きい方が伝播速度が速いという音響非線型特性を
持っていることから、波形が伝播するにつれ次第にパルス幅が狭く音圧が大きい単一のパルスにまとまって
いる。この波動を衝撃波と呼ぶ。衝撃波は音速より速い波動なので、音波とは呼ばない。医学領域では大き
い音圧の波を単に衝撃波と呼んで議論することが多いようであるが、物理的には誤っている場合もある。音波
が衝撃波となるには、ある程度の伝播距離が必要である。

 
文献

1) 荒井恒憲:内視鏡下診断と治療に応用可能なレーザー. 日本レーザー医学会誌 14:13-20, 1993.

2) 荒井恒憲:レーザーの基礎. 水野杏一編「心血管レーザー治療」p.9-32, 文光堂, 東京, 1991.

3) Krueger RR, Trokel SL : Quantitation of corneal ablation by ultraviolet Laser Light. Arch Ophtalmol 
103 : 1741-1742, 1985.

4) 久住治男:泌尿器科領域における光力学的治療. 日泌尿会誌 82 : 865-870, 1991.

5) Poppas DP, Scholossberg SM : Laser tissue welding in urologic surgery. Urology 43 : 143-148, 1994.
6
) 荒井恒憲:赤外レーザー照射による生体軟組織の蒸散機構. 電気学会論文誌C 114-c : 522-528, 1994.

7) 荒井恒憲: Ho : YAG(ホロニウム・ヤグ)レーザー治療器. 医学のあゆみ 168 : 813-816, 1994.

8) Teng P, Nishioka NS, Anderson RR, Deutch TF : Optical studies of pulsed-laser fragmentation of 
biliary calculi. Appl Phys B42 : 73-78, 1987.

9) Berenberg VA, Murzin AG, Polikarpov SS, Soms LN, Vitrishchak IB, Vorontsov VV : On ohysical 
mechanisms of laser-induced shockwave lithotripsy in the microsecond range of laser pulse durations. 
Proc SPIE 1879 : 126-130, 1993.