日レ医誌(JJSLSM)第22巻第3号

レーザー誘発液体ジェットメス

1国立仙台病院脳神経外科 2東北大学脳神経外科 3東北大学衝撃波研究センター
○ 上之原広司1, 平野孝幸2, 小松真3, 高山和喜3, 吉本高志2
 

はじめに
 我々脳神経外科医が手術対象とする脳神経系器官は、他臓器と比較してその機能局在が顕著であり、手
術操作で生じた脳組織およびその周囲組織の損傷、特に脳血管の損傷はその灌流領域の虚血変化に伴う
運動麻痺や言語障害などの重篤な神経障害を引き起こす可能性が大きい。このため、脳血管を温存しながら
目的とする脳組織や腫瘍などを切除できるデバイスの開発が望まれている。本研究の目的は、パルスHo: 
YAGレーザー照射で誘発した液体ジェットを用いて、前述のようなデバイスを開発することである。
2. 実験方法
 内径1.0 mmの銅製金属ノズル(ノズル面積比 e = 0.25)にYアダプターを接続し、その中を純水で満たした。
Yアダプターから直径0.3 mmの光ファイバーをノズル内に挿入してレーザー液体ジェット(LILJ)メスを作成し
た。Yアダプターの側管からは150 ml/hrの速度で純水を持続注入し、レーザーを230 mJ/pulseで発振した。
そして、LILJメス先端で引き起こされる現象を高速度カメラにて撮影した。
 続いて、10%(w/v)ゼラチン(その弾性率が肝臓などの生体実質臓器とほぼ等しい)で作成した模擬組織内
に、30%(w/v)ゼラチン(弾性率がそれとほぼ等しい)で作成した模擬血管を封入し臓器モデルとした。このモ
デルに5 mm離れた位置からLILJメスを作用させ(レーザーエネルギー=230 mJ/pulse)、その様子を高速度
カメラにて撮影した。
 また、これら結果を踏まえ、ブタ肝臓の本デバイスによる切開を試みた。
3. 結果および考察
 図1はLILJメス先端から射出された液体ジェットの高速度写真である(撮影間隔=256 μs)。ジェットは開口
端から直進し、その初速は16 m/secであった。
 図2はゼラチンで作成した臓器モデルを用いてLILJメスの作用過程を撮影した高速度写真である(撮影間隔
=256 μs)。上段はLILJメスを模擬血管の存在しない模擬組織内へ向けて使用した場合の結果であるが、ジ
ェットが模擬組織内へ深く貫入してゆく様子が捉えられた。一方、下段は直下に模擬血管が存在する部位に
LILJメスを使用した場合の結果であるが、ジェットは模擬組織内へ貫入し模擬血管に到達したものの、それ以
上の進行を阻まれ停止した。
 さらに、本デバイスでブタ肝臓を切開したところ、血管などの脈管構造を温存しながら肝臓実質を切開するこ
とができた。
 以上の結果から、LILJは弾性率の大きな構造物を温存しつつ、弾性率の小さな構造物を切開もしくは破砕
する可能性が示唆された。このシステムをマイクロ手術のデバイスに応用すれば、我々脳神経外科医のみな
らず多領域の外科医が求める、血管を温存しながら脳などの組織を切除するデバイスの開発が期待できる。
 今後、早期臨床応用を実現するために、安定した術野の確保が得られるようなLILJメスに最適な吸引システ
ムを考案するとともに、本ジェットの急性期および慢性期における生体組織への影響などについてin vitro お
よびin vivoの検討を重ねる必要がある。

図1
 
図2