日レ医誌(JJSLSM)第22巻第3号

レーザー誘発液体ジェットによる血栓内へのドラッグデリバリー
 
1東北大学脳神経外科 2東北大学衝撃波研究センター 3国立仙台病院脳神経外科
○平野孝幸1, 小松真2, 上之原広司3, 高山和喜2, 吉本高志1
 
1. はじめに
 脳塞栓症は脳動脈に血栓が閉塞し血流を遮断することで引き起こされる虚血性疾患である。一般に脳組織
は6時間以上の虚血が持続すると、それに伴う神経症状の回復は困難とされており、本疾患において発症数
時間での早期脳血流再開が必要とされる。本研究の目的は、マイクロカテーテル内に誘導した光ファイバー導
光のパルス・ホルミウム・ヤグ(Ho: YAG)レーザー照射により液体ジェットを発生させ、これに極少量の線溶剤
を併用して塞栓子溶解を促進し、脳塞栓治療成績の向上をはかることである。

2. 実験方法
 6 Fr(内径1.0 mm)の血管内診断用カテーテルの遠位端をYアダプターに接続してその中を純粋で満たし
た。Yアダプターから直径0.6 mmの光ファイバーを挿入して液体ジェットカテーテルを作成した。一方、模擬血
栓としてその弾性率がほぼ等しい10%(w/v)ゼラチンを内径4.0 mmのガラス管内に封入してその両端を純水
で満たした後、純水で満たされた実験用水槽内に固定した。液体ジェットカテーテルをガラス管内に挿入して
その先端を模擬血栓底に接触させ、350 mJ/パルスでレーザーを単発振し、カテーテル先端と光ファイバー先
端の距離(L)を変化させて、ガラス管内の様子を高速度カメラにて撮影した。
 続いてヒト血液で作成した人工血栓を用いて、レーザー液体ジェットが線溶剤の効果に及ぼす影響について
検討した。直径5 mmのテフロン管内に高さが10 mm前後となるように人工血栓を封入し、その上層にウロキ
ナーゼ(UK)250 IUを注入した。この中にL=13 mmに固定した液体ジェットカテーテルを挿入しその先端を血栓
底に接地させ、350 mJ/パルスでレーザーを単発振した。カテーテルを除去し、テフロン管を37℃で10分間も
しくは30分間静置した後、血栓をチューブから取り出しホルマリン固定した。固定した血栓を加熱器にて十分
乾燥させその重量を計測した(B群)。レーザー発振を行わずに同様の操作を施した血栓についてもその乾燥
重量を計測した(A群)。あらかじめ計測しておいた未処置血栓の乾燥重量(Wc)と処置後の血栓重量(Wt)か
ら線溶率[=(Wc-Wt)×100/Wc](%)を算出しその結果を比較検討した。

3. 結果および考察
 本カテーテルから発生した液体ジェットは模擬血栓内に直進貫入した。ジェットの最大貫入距離(D)はLが大
きくなるに従って大きくなったが、L=13 mm付近で最大値(D=約9 mm)(図1)となりそれ以上では緩やかに減
少した。
 10分間静置のA群は 5.4 ± 2.4% (mean ± SD、以下同様)、 B群は22.6 ± 6.1%であり、両者間には統計
的有意差が認められた(p<0.001)。また、30分間静置のA群は7.3 ± 3.8%、 B群は38.3 ± 5.6% であり、両者
間には統計的有意差が認められた(p< 0.001)。
 以上の結果から、Ho:YAGレーザー誘発液体ジェットはUKの効果を著しく増大させることが示された(10分間
静置:約4倍、30分間静置:約5倍)。本効果は、Ho:YAGレーザー誘発液体ジェットによる一種のドラッグデリバ
リー現象と見なすことができる。つまり、ジェットが血栓内に血栓溶解剤を貫入させ、薬剤との接触面積を拡げ
ることで血栓溶解が促進するというものである。本システムは構造が単純なため、末梢脳動脈において操作
可能なデバイスの開発が可能となる。今後、in vivoによる検討を重ね、その早期臨床応用を目指したいと考え
ている。 


図1
 
図2