最終更新日:1998年7月10日
尿路結石治療に対するホルミウムヤグレーザーの応用
Holmium:YAG laser for endoscopic lithotripsy


久留米大学医学部泌尿器科
Department of Urology,
Kurume University School of Medicine


松岡啓・野田進士・野口正典
中並正之・島田明彦・三原典
Kei Matsuoka, Shinshi Noda, Masanori Noguchi, 
Masayuki Nakanami, Akihiko Shimada, Tsukasa Mihara


要旨

軟部組織治療に有効であるホルミウムヤグレーザーを尿路結石患者の結石破砕手段として使用した。評価可
能症例は38例で結石存在部位は腎5例、尿管31例(上部尿管17例、中部尿管3例、下部尿管8例、上・下部
尿管2例、中・下部尿管1例)、腎・尿管1例、膀胱1例であった。経尿道的腎尿管砕石術(TUL)は33例に対し
て、経皮的腎尿管砕石術は5例に対して施行した。レーザー照射条件はパルス毎照射エネルギー:0.5−1.
0J、パルスレート:5−10P/Sでシスチン結石を含むすべての結石に対して破砕効果を認めた。レーザー照射
後6週目における治療効果は38例中33例(87%)に有効であり、残りの5例のうち4例は自然排出が可能な
5mm以下の残石であった。他の1例は3ヶ月後に自然排石した。ホルミウムヤグレーザー使用による重篤な組
織傷害や生体に対する障害は認められなかった。本レーザーは軟部組織に対しても有効な治療手段であり結
石破砕手段として使用すればcost effectiveで臨床的に有用性が高いと考える。 


はじめに

 最近の医用レーザーの開発には目を見張るものがあるが、尿路結石治療においては結石破砕手段として
の応用が盛んである。とくに患者のQuality of1ife が重視されるようになり、Endourology の進歩と相まって、
より細径の低侵襲性腎孟尿管鏡の開発はレーザー砕石抜きでは考えられない。現在結石破砕手段としての
レーザーが既に臨床で応用されているが、これらは結石に対する使用に限定されている1)-6)。著者らは軟
部組織治療に対しても有効であると言われているホルミウムヤグレーザー(米国コヒレント社)を結石破砕手
段として試用する機会を得たのでその成績を報告する。 

対象

 久留米大学病院泌尿器科において1993年6月から1994年1月までに、経尿道的腎尿管砕石術(以下TUL)
もしくは経皮的腎尿管砕石術(以下PNL)を受けた尿路結石症患者は39名(男性23名、女性16名)、41例(病
巣単位)であった。これらは主に体外衝撃結石破砕術(以下ESWL)を受けたのちの嵌頓結石や諸種の理曲に
よりESWLの適応外と判断された症例である。こめうち治験実施計画書に記載された墓準を満足し結石破砕
手段としてホルミウムヤグレーザー(以下Ho:YAG)を使用した38例を対象とした。38例の結石存在部位は
腎:5例、尿管:31例(上部尿管17、中部尿管3、下部尿管8、上・下部尿管2、中・下部尿管1)、腎・尿管:1
例、膀胱:1例であった。またこれら患者の平均年齢は56歳(19〜77歳)であった。 

方法

すべての患者に対して硬膜外麻酔を施行して砕石位とし、X線透視装置とビデオモニター装置の併用にて手
術を施行した。
TULを施行する場合は尿管鏡として先端が外径6Fr.のコンパクトファイバー尿管腎孟鏡(Wolf)を使用し、結石
が腎内にPush up された時には先端の外径が7.3Fr.のファインファイバースコープ(TAKAI)を適宜併用した。コ
ンパクトファイバー使用時には、潅流液を自然落下として尿管口を拡張することなく尿管内に直接挿入した。フ
ァインファイバー使用時にはガイドワイヤー補助下に尿管内に挿入した。いずれの尿管鏡でも、結石の直下に
尿管鏡先端を置いて導光ファイバーを尿管内に挿入し導光ファイバー先端を結石と接触させて持続潅流下に
レーザーを照射した。この際、導光ファイバー先端を粘膜に接触しないように、また潅流液が中断することなく
持続するように注意した。
 結石破砕の方法として、初期例についてはまず低出力にて結石の中央部を貫通させ、次にその貫通穴の中
央付近にファイバー先端を置き、高出力にてレーザーを照射し、結石を破砕したが、20例目以降よりは低出力
にて結石端より中心に向かって破砕した。可能な限り小片(直径2mm以下)となるように破砕することを原則と
したが、破砕中の結石や破砕片の移動などがあった場合には結石が自然排出可能な大きさ(4mm以下)とな
ったところでレーザー照射を終了した。破砕片が腎内に移動した場合で直径3mm以上の結石に対しては自然
排石を効果的にするためESWLを施行した。
 レーザー照射条件として、パルス毎照射エネルギーは0.5〜1.0J、パルスレートは5〜10(1例のみ12)P/S
とした。
 結石破砕後は造影剤により尿管損傷の無い事を透視下で確認し、患側尿管にダブルーJステントまたはダ
ブルーピッグテイルカテーテルと、膀胱にフォーリーカテーテルを留置し手術を終了した。フォーリーカテーテル
は術翌日、尿管ステントは術後3〜5日にて抜去した。

Ho:YAGレーザーによる結石破砕効果の判定

 結石破砕の直接効果として、レーザー破砕直後または数日以内に腎・膀胱部単純写真を撮影し、破砕片が
自然排石可能な大きさである直径4mm以下であるなら有効とし、5mm以上の場合は無効とした。
 結石は破砕されたが、破砕途中に結石が腎内に移動し、導光ファイバーが結石に接触できずそれ故レーザ
ー照射が困難な場合は無効と判定した。
 最終判定は治療効果判定として、術後6週目に必要なX線撮影を行い、残石の大きさが直径3mm以上を無
効とし、結石陰影がないか直径2mm以下の残石までを有効とした。
 検尿、血算や肝・腎機能などの血液生化学的検査を術前と、術後は直後、退院時(または2週間後)に施行
してHo:YAGレーザーの生体に与える影響を検討した。 

結果

1)結石への到達
 結石に対するアプローチはTULが33例、PNLが5例であった。TUL症例の結石サイズは平均7×12mm(2〜
12×3〜20mm)で、PNL症例のそれは平均16×23mm(11〜20×18〜30mm)であった。


2)照射エネルギー
 パルス毎照射エネルギーは同一患者においても0.5〜1.0Jまで変更した例もあったが、約2/3の症例では
0.5Jであった。またパルスレートも5〜10P/Sまで変更したが、同様の症例においては5P/Sで砕石力は十
分であった。
 使用したHo:YAGレーザーの合計照射エネルギーの平均は1.98KJ(0.07〜9.75KJ)で、TUL症例では平均
1.87KJ,PNL症例では平均2.7KJの合計照射エネルギーとなった。


3)直接的結石破砕効果
 術直後または数日後の結石破砕効果は、38例のうち5mm以上の残石を認めたのは6例で、32例(85%)に
おいて臨床的な結石破砕効果を認めた。ただし、5mm以上の残石を呈した6例においても、5例は結石破砕中
に腎内にPush up されたので、残りの1例はサイズの大きな腎結石症例のため、いずれも結石に対するレー
ザー照射をあえて中断した症例であり結果的には全例で結石破砕効果が得られた。
 結石成分については27例で判明した、すなわち蓚酸カルシウム・燐酸カルシウムの混合結石が19例で多
く、蓚酸カルシウム結石4例、燐酸カルシウム結石1例、燐酸マグネシウム・アンモニウム結石2例、シスチン
結石1例であった。
 よって、これらの結石成分については全例に破砕効果があった。


4)治療効果判定
 レーザー照射後6週目における残石の有無による治療効果では、38例中3mm以上の残石を認めた例は5例
(13%)であり、治療効果は33例(87%)に得られた。残石5例のうち4例は5mm以下の結石である。また1例
は5mm以上(5x6mm)の残石であったが、3ケ月後に自然排出した。


5)合併症
 初期の2例(第5例目と第11例目)においてレーザー使用によると考えられる尿管損傷を経験した。第5例目
は尿管粘膜の白色状変化と一部尿管壁の穿孔で、第11例目は尿管口部の穿孔であった。これら2例の穿孔
部は尿管ステントカテーテルを約1週間〜2週間留置することにより尿管狭窄をきたすことなく自然に治癒し
た、他にHo:YAGレーザー使用によると思われる合併症を経験しなかった。また術後の血算、化学的検査に
おいても、術前と比較して何ら変化を認めなかった。 

考察

尿路結石の破砕手段として強力超音波、電気水圧衝撃波、レーザーなど種々の方法が考案され臨床応用さ
れてきた。いずれの方法においても本来の尿管口を拡張することなく、また尿管内腔に余分な外力を加えるこ
となく、非侵襲的に結石まで到達可能な腎孟・尿管鏡を介して結石を破砕することが理想である。この意味に
おいてレーザーは導光ファイバーが極細で、ワーキングチャンネルの口径の細径化が可能で、ひいては尿管
鏡自体の小型化を可能ならしめるので、非侵襲手術を行う上で理想的な破砕手段といえる。結石破砕手段と
してのレーザーの開発は、ルビーや炭酸ガスレーザー7)に始まり、種々のレーザー8)が砕石の可能性につ
いて検討されてきた。現在臨床において主に使用されているのは、パルス波色素レーザ」1)-4)とアレクサン
ドライトレーザー5)-6)である。両者とも結石治療への有用性は高いが、結石以外への使用は不可能で、しか
もコストが高いという欠点を有している。Ho:YAGレーザーは軟部組織に対しても使用できる汎用性を有してい
る9)一13)。今回は尿路結石に対して砕石手段として臨床的に有用であるか検討した。この結果、尿酸を除く
すべての成分の結石に破砕能力を有することがわかった。今回は臨床例で尿酸結石を経験しなかったが、著
者らの尿酸結石を用いたin vitro の検討においては、Sayerら14)の検討の結果と同様に尿酸結石に対しても
有効であった。特に他のレーザーでは破砕が不可能であるシスチン結石に対して容易に破砕が可能であった
事は特筆すべきことである。臨床的にも術後6週目における結石消失率は十分に満足できる結果であった。
Sayerら14)は他疾患で摘出した尿管を用いてHo:YAGレーザーを使用した砕石実験をし、尿管の損傷を予防
するためには低出力・低パルスレート(1実際には0.5J,5P/S)での使用を推奨している。著者らも0.5J,5P
/Sの条件での使用を原則としたが、実際には0.6J,0.8J,1.0Jや8P/S,10P/Sでの使用を約1/3の症例
に経験した。このような大出力の使用例でも尿管の損傷は経験しなかった。結石破砕の際に導光ファイバー
先端が粘膜に接することがない限り、結石破砕に際しては尿管への損傷はないものと考えられる。ただし、粘
膜に接していなくても大出力での長時間の粘膜への照射は好ましくないであろう。著者らは初期例において
本レーザーの使用に不慣れなため本レーザーによる尿管損傷を2例に経験した。これらは結石破砕片に隠れ
た導光ファイバーの先端が粘膜に接したことにより生じたと考えている。しかしいずれも尿管ステント留置によ
り狭窄を来すことなく自然治癒した。また本レーザーによる他の合併症は1例も経験しなかった。Ho:YAGレー
ザーの結石破砕に際しての特徴は、パルス波色素レーザーのように結石破砕片が跳ねて離散し、容易に腎
内にpush upすることがないこと、尿管内を浮遊するような結石に対しても比較的結石を移動させることなく容
易に破砕できる点にある。
 結石破砕力は他のレーザーに比較して若干弱いように感じられるが、破砕不能であった結石はなく十分な
破砕力を有している。また破砕に際しての結石の飛散が少ないことよりむしろ他のレーザーの方が強すぎると
考えている。Ho:YAGレーザーによる結石破砕の際に導光ファイバーにて結石を上から尿管粘膜の方へ押さ
えながら導光ファイバー先端で結石の端より中心に向かって徐々に破砕することにより結石の移動もなく十分
な破砕が完了する。
 以上のようにHo:YAGレーザーは結石破砕手段として有用な方法であると考える。
 著者らが使用した導光ファイバーは種々改良された良質のものであったが、軟性腎孟尿管鏡を使用しての
使用に若千の間題があったので追記する。TULにおいて上部または中部尿管の結石の破砕片が腎内に
push upされた場合、軟性腎孟尿管鏡を使用することが多い。とくに下腎杯内に入り込んだ結石に対しては尿
管鏡の先端を強く湾曲させて結石をとらえなければならない。現在の導光ファイバーは少々硬く、ファイバーを
挿入したままでは尿管鏡の先端が十分に湾曲しない。これは他のレーザー用導光ファイバーについても同じ
ことが言えるが導光ファイバーのさらなる軟性化または細径化などの改良が必要であろう。導光ファイバーを
挿入しても十分な軟性鏡の湾曲が得られれぱ腎内結石もTULにおいて殆どが処理可能となるので患者にとっ
てさらに低侵襲となるであろう。 

おわりに

尿路結石症38例に対し、TUL,PNLにより結石破砕手段としてHo:YAGレーザーを使用した。Ho:YAGレーザ
ーは殆どすべての結石に対して十分な破砕力を持ち、満足できる臨床的効果を示した。また重篤な合併症も
認めなかった。Ho:YAGレーザーは軟部組織に対しても有効な治療手段であるのでcost effective であり臨
床的に有用性が高いと考える。