「2001年未来基金」99年度研究助成報告
大阪教育大学教育学部附属天王寺中学校 上田 学
1,はじめに
21世紀の日本の超高齢社会は,バリアフリー社会になることが必要である。今後のバリアフリー社会の実現に向けては,バリアフリー社会の必要性や本質を理解して,その考え方を基に社会を支えるハードウェアやソフトウェアへと具現化できる人材の育成が不可欠である。
一方,これからの学校教育に於いても,福祉教育への重要性が指摘されるようになった。本校では,平成8年度よりホームページでの情報発信「障害者アクセスマップin関西」の授業を実施しており,教育的効果を上げている。また,「廃棄車イスのリサイクルによる国際貢献」の授業には,年々参加校が増加しており,現在大阪・奈良の協力校20校余りとバリアフリー教育ネットワークを形成し,本格的な共同プロジェクト
(http://www.tennoji-j.oku.ed.jp/tennoji/tec&home/gijyutu.htm)へと発展してきている。このように,バリアフリーやバリアフリー教育に関しては,今後益々重要になって来ると考えられる。特に,インターネットを利用した情報教育との融合が,非常に重要になってくると思われる。本プロジェクトは,次代のバリアフリー社会支える人材育成とインターネットを用いたバリアフリー教育の促進のために,実社会の駅のバリアフリー調査とホームページによる情報公開のためのイベントを,複数校の中学生の有志が夏期休暇中に集う形式で実施する。具体的には,駅のバリアフリー調査を実施して,その結果をホームページに掲載することで,中学生にとってもバリアフリー社会の必要性が理解できる教育プロジェクトである。それと同時に,ホームページ上の情報公開によって,中学生が将来のバリアフリー社会の重要性を社会全体に向けて主張でき,結果として社会全体がバリアフリーに対する意識を深めるような啓蒙活動が期待できる社会的プロジェクトにすることを目的とする。
2,プロジェクトの概容
2−1,プレプロジェクト
本研究では,障害者やバリアフリーなどに関する学習や廃棄車いすのリサイクルの授業も初めての学校があるために,イベントなどの参加を通して,それらの学習に対する意義や方法を自然に身につけてもらう必要があった。そのために下の表のように,本題の駅のバリアフリー調査に入る前に,2度のイベントを実施することにした。
最初のプロジェクトは,障害者労働センターが主催している「共生・共走マラソン」への参加である。このイベントは,本年度で第6回を迎えるイベントで,障害者と共に1周約1kmの鶴見緑地の外周を,とにかく8時間走り続けながら,障害者との交流を図る大会である。大阪では,段々と定着し始め,数千人規模の大きな大会となってきている。
もう1つは,車いすの修理の研修会である。川村義肢の協力を得て,車いすの修理についてポイントを講習してもらった。その他,様々な車いすについて説明をしてもらったり,工場内にある車いす体験コースを使って様々な状況の道路での車いす走行体験も実施してもらった。
■プレプロジェクト1:共生共走マラソン参加 日時:1999年5月30日 場所:大阪市鶴見緑地 主催:障害者労働センター |
■プレプロジェクト2:車いすの修理の研修会 日時:1999年8月11日(水)10:00〜15:00 場所:株式会社川村義肢大東工場 主催:バリアフリー教育ネットワーク |
2−2,主プロジェクトの概容
主プロジェクトの目的は,バリアフリー教育の指導法の拡大を意図して,初めての学校に対して,駅のバリアフリーチェックの仕方を習得してもらうこと,並びにホームページでの情報発信の方法を習得してもらうことである。
まず,駅の調査方法の学習においては,実社会で活躍しているボランティア団体として「おんなの目で大阪の街をつくる会」の三好さんに講演をお願いし,合わせて実際の駅調査にも同会から講師3人の同行して頂いた。
また,ボランティア精神を学習するために,東京の日野市で中高生中心のボランティア活動を続けている会の会長花房君(当時日野市公立中学校3年生)に,同年代のボランティア活動の状況などを講演して頂いた。
その後,出席者88名を8つの駅に均等になるように配分し,実際の駅調査を実施した。調査の前には,事前に大阪市交通局に電話でお願いをしておいた。
調査後,会場に再び戻って,ホームページの作成にあたった。
■ 本プロジェクト:駅調査とホームページの作り方講習会日時:1999年8月22日(日)10:00〜16:00 場所:大阪南港ATCエイジレスセンター 主催:ATCエイジレスセンター バリアフリー教育ネットワーク . |
3,フォーラム開催の結果
A:駅調査の結果
夏休みの人通りの多い時期の調査であったが,比較的スムーズに実施できた。特に大阪市交通局に事前連絡していたため,多くの駅員さんが協力して案内して頂いたり,日頃は見ることができない「携帯のスロープ」や「車いす対応のエスカレータの操作」などを実演していただくことができた。参加した各校の生徒は,初めての経験に意外と知らなかったり,気にもとめなかったりした駅が,以外とバリアフリーを意識してつくられていることなどを再認識するきっかけとなっていた。
B:ホームページによる情報公開
元来コンピュータに精通している生徒と教員が少なかったため,各駅のホームページ作成には非常に時間がかかってしまった。1つの原因は,携帯端末からe-mailを用いて本部のパソコンに画像転送を試みたが,結果的には非常に時間がかかりすぎ,駅調査自体が予定時間をかなりオーバーしてしまったことがあげられる。製作時間が不足したため,各学校に持ち帰ってホームページ完成させるように宿題としたが,最終的に完成した駅は
コスモポリス駅のみになってしまった。調査した結果写真データから,各駅の設備を比較した
一覧表1及び2を完成させることができた。4,まとめ
ここ数年,バリアフリーへの考え方が重視されている。この状況に置いては,中学生が実施する駅のバリアフリー調査は,教育的意義や教育的効果と共に,実社会への提言としての効果も期待できよう。特に,調査結果をホームページとして掲載することで,社会的意義や啓蒙活動としての効果が大いに期待されるものの,今回のようなイベントでは,作成時間を十分とるべきであることが分かった。また携帯端末を静止画の転送用と考える場合,画像データなどの大容量を送ることには適さないことが分かった。このような実験的な場面では,ノートパソコンなどを用いて,画像の大きさを小さくすること,或いは画像データを圧縮させてから転送する方が,実用的であろうと考える。
全体としては,イベントの成果が,今後の各学校での教育活動にどのように発展されていくか,将来的に楽しみな状況である。
以上