医学のあゆみ Vol.168 No.9 1994.2.26 pp.813-816

新しい医用レーザー機器の動向 4

Ho: YAG(ホロニウム・ヤグ)レーザー治療器

 

荒井 恒憲
防衛医科大学校電子工学講座

Tsunenori ARAI
Ho: YAG laser treatment system 
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・石英ファイバーで伝送でき、切開・蒸散能と凝固能を併せ持ち、さらに軟組織だけでなく軟骨などの硬組織
の治療も可能な Ho : YAG レーザーは、新時代のレーザー治療器として注目されている。


 キーワード:Ho : YAG (ホロニウム・ヤグ)レーザー、レーザー治療器
 
 Ho : YAG(ホロニウム・ヤグ)レーザーはYAG母材のなかにHoの3価イオンを注入した固体レーザーで、発振
波長は2.1μmである。この波長は石英ガラスファイバーの短距離医用伝送(〜4m)可能な波長範囲の上限
に位置する。Ho : YAGレーザーに対する生体の光吸収係数はNd : YAG レーザーよりも2桁大きく、切開用の
CO2 レーザーと凝固用のNd : YAG レーザーの中間の生体作用を持っている。このような特性は医用レーザ
ーとして早くから注目されており、1977年には基礎的な生体作用実験が報告された1)。
 しかしこの後、治療器の開発はまったく進まなかった。Ho:YAG レーザーは目に照射した場合、網膜までは
到達せず角膜の障害閾値も比較的高いことから、eye safe laser として測距機器用途には生産が続いてい
た。この Ho : YAGレーザーが治療器として注目されるようになったのは、ファイバー伝送下での切開蒸散能を
必要とする、最小侵襲治療としての経カテーテル的動脈内手術や内視鏡下手術が出現したからである。  

 ■Ho : YAG レーザー装置


 Ho レーザーは理想的な物性を持つ同じ希土類元素の Nd(ネオジウム)レーザーよりも下位レーザー準位が
基底準位に近く、温度の上昇によりレーザー発振が急激に困難になる特性を持っているこのため、連続発振 
Ho : YAG レーザーは液体窒素温度程度の冷却が必要となり実用的でなく、一般に励起にキセノンフラッシュ
ランプを用いてパルス発振を行う。通常パルス幅は150〜250μs程度で図1に示すように、多くのスパイク上
のピークを含んでいる。Ho : YAG レーザーでは、レーザーの効率を改善するため Cr(クロム)とTm(ツリウム)
を添加するので、頭文字をとって、THC : YAG レーザーとよばれることもある。標準的な Ho : YAG レーザー装
置の最大出力エネルギーは1〜2J/パルス、最大繰返し周波数は10〜20Hzである。前述のように動作温度
に敏感なため、繰返し周波数を増すとパルスエネルギーは減少する。最大平均出力は20W程度になるが、同
じ理由でこれよりも大きい平均出力の装置をつくることは難しい。固体レーザーであるので、フラッシュランプ
の交換以外はほとんど調整の必要がなく、装置寿命も長いので運用コストはガスレーザーに比べて安い。 
 
サイドメモ:パルスレーザーの照射条件

パルスレーザーの生体作用は照射フルエンス、繰返し周波数によって大きく変化する。照射フルエンスは一
発のパルスエネルギーを照射面積で除したもので、照射エネルギー密度とも呼ばれる。単位はJ/cm2であ
る。繰返し周波数は1秒間に照射するパルス数で単位はHzである。照射フルエンスと繰返し周波数を乗じたも
のを照射イラディアンスと呼び、単位面積の照射パワーを示し、大きい方が早い蒸散を実現できる。軟組織の
場合、使用できる照射フルエンスの上限は周囲組織断裂の発生で規制され、繰返し数の上限は周囲熱損傷
の発生で規制される。また両パラメータともに装置の性能によっても規制される。
  

 
 
 ■Ho : YAG レーザーの生体利用

生体組織に Ho:YAGレーザーの波長2.1μmの赤外光を照射すると、光は組織中の水に吸収されて熱化し、
組織の熱的な蒸散が起こる。この原理は基本的に Nd : YAG レーザーや CO2レーザーの生体作用と同じで
ある。Ho : YAG レーザーの生体組織(水)での光吸収係数は〜20cm-1(光侵達長〜0.5mm)で、Nd : YAGレ
ーザーと CO2レーザーの中間であり、非接触連続照射では鋭利な切開は生じない1)。ただし、Ho : YAGレー
ザーはパルスレーザーであるので、上記の連続レーザーとは違った特徴のある生体作用を示す。
 パルス Ho : YAG レーザーを含水物質に接触照射すると図2に示すような大きな水蒸気気泡が生じる。最大
の寸法は横方向の直径約3mm、縦方向の直径約4mmで、300μs程度で消滅するから肉眼では観察できな
い。図2は水中で高速の時間分解撮影装置を用いて撮影した写真である。大きい気泡の発生は、切開用レー
ザーとしては生体組織に対して比較的吸収係数の小さい(光侵達長の長い) Ho : YAG レーザーの特徴であ
る。Er : YAG レーザー(波長2.94μm)や XeCl エキシマーレーザー(波長308nm)でも同様の気泡ができるの
であるが、光侵達長が Ho : YAG レーザー光より短く、気化する(含水)組織体積が小さいので、発生した気
泡は小さい。 Ho : YAG レーザーの接触照射の場合、気泡発生によって周囲組織にかかる張力は、CO2レー
ザーメスの切開において助手が切開創に張力をかける操作に相当し、切開速度(生体組織の消滅を必ずしも
伴わない)を増加させる作用がある。この反面、あまりにも大きい気泡の発生は周囲組織に過大な張力を与
え、周囲組織断裂(照射方向の側方)の副作用が発生する恐れがある2)。したがって、接触照射による Ho : 
YAG レーザー蒸散では過大な気泡発生を起こさないように照射フルエンスを適正化することが重要である。
 図3に適正な照射フルエンスで接触蒸散を行った血管壁断面の組織写真を示した。 CO2レーザーやエキシ
マレーザーのような鋭利さはないが、炭化物や周囲組織の熱損傷層も少なく、蒸散用レーザーとして使用で
きることがわかる。著者らの動脈血管壁における基礎実験結果では、蒸散閾値は約100J/cm2、周囲組織断
裂の発生閾値は400J/cm2であり、適正な照射フルエンスは200〜400J/cm2となることがわかった3)。このフ
ルエンスは XeCl エキシマレーザーで使用している照射フルエンスの40〜80倍で、かなり大きい。胃壁に粘
膜面より照射した場合は、粘膜層や筋創は血管壁と同じく100J/cm2付近に蒸散閾値があったが、もっとも強
靭な粘膜筋板を効率よく蒸散するには、400〜500J/cm2の照射フルエンスが必要であった4)。このように、組
織の抗張力(tensil strength, 破断の強度)の違いが原因で、適正な照射フルエンスは組織ごとに異なってい
る。気泡の生成は Ho : YAG レーザーの照射条件に依存するが、その消滅は周囲組織の機械的物性に関係
している。著者らは気泡の消滅時間を経ファイバー的に計測することで、蒸散中の生体組織判別を行う方法を
考案し、検討を進めている5)。
 Ho : YAG レーザーは生体に接触照射しても、組織片が水蒸気気泡により飛ばされて先端に付着しにくく、
接触端子の焦げ付きが発生しにくい利点がある6)。経カテーテル的な運用や、各種内視鏡下の治療ではほと
んどの場合、接触照射を行うことになるが、接触端子への生体組織の焦げ付きは従来の連続発振のレーザ
ーでは完全に防ぐことは難しく、問題点のひとつであった。さらに、Ho : YAGレーザーは、軟組織ばかりでなく
硬組織の治療にも利用できる特徴がある。これは、硬組織にも数十%の水が含まれておりこの水が組織中で
水蒸気気泡となって組織の断裂を起こすためである。対象は石灰化動脈硬化や軟骨などで、とくに整形外科
用の治療器として注目されている。ただし、結石破砕(尿路結石、胆嚢結石)や大きい骨の切断に用いるには
やや破砕能が小さいようである。
 凝固を行う場合は蒸散閾値付近の照射フルエンスでなるべく早い繰返し周波数を用いる。Ho : YAG レーザ
ーの場合、照射パワーが20W程度なのであまり強力な止血能は望めないが、CO2レーザーにはない、照射野
の血液の排除(はね飛ばす)効果があり、局面によってはかなり有効な凝固止血を行える可能性もある。
 Ho : YAG レーザーよりも精密な蒸散を行うために、発振波長がわずかに短い Tm : YAG レーザーも提案さ
れており、注目されている。

  
 
 ■臨床応用

すでに数種類の Ho : YAG レーザー治療器がアメリカで開発されており、その一部はわが国でも治験中であ
る。図4に Ho : YAG レーザー治療器の一例を示す。臨床応用はアメリカの Food and Drug Administrarion 
(FDA) から認可されたものとして、一般外科治療、内視鏡下(腹腔鏡含む)一般外科治療、関節鏡下治療7)、
経皮的椎間板ヘルニア手術8)、耳鼻咽喉科治療、泌尿器科治療9)、などがある(注: 一種類の装置で全部
の許可が得られているわけではない)。また認可が近いものとして、動脈内レーザー形成術がある10)。また、
眼科領域の治療(角膜形成術、強膜切開術)も検討されている11)。
 これらの臨床への適用は、 Ho : YAG レーザーの有する、切開・凝固能、硬軟両組織の蒸散能、ファイバー
伝送の利点を生かしたものである。従来レーザー治療の適用がほとんどなかった、整形外科領域に Ho : 
YAG レーザー治療器が導入されているのが興味深い。動脈硬化は病態によって組成が大幅に変化するの
で、レーザー血管形成術ではすべての病態に適合する治療用レーザーの選択が問題であったが、Ho : YAG
レーザーの動脈内レーザー手術への適用は、このレーザーの蒸散特性を考えるときわめて合目的である。著
者らは、 Ho : YAG レーザーによる胃壁のレーザーストリップバイオプシーの基礎検討や、マルチファイバーカ
テーテルを用いた尿路狭窄治療、レーザー誘起応力波を用いた前立腺肥大治療の基礎検討を行っている。
 
 ■おわりに

Ho : YAG レーザーの臨床応用ははじまったばかりであり、各科においてその優れた特性を活かす応用が多
数存在すると思われる。また、照射条件によって生体作用が変化する特性もきわめて興味深い。臨床使用可
能な装置の普及が待望される。 
 
文献

1) Koningsmann, G. et al. : Application og the CO laser and the Ho laser as a surgical instrument 
compared with other IR lasers and conbentional instruments. Proc. Sym. Lasers Med. Biol. BPT5 : 38-1-
38-10, 1977.

2) Leeuwen, T. G. et al. : Origin of arterial wall dissections induced by pulsed excimer and mid-infrared 
laser ablation in the pig. J. AM. Coll. Cardiol. 7 : 1610-1618, 1991.

3) 中島章夫・他 : Ho : YAG レーザーと紫外 Ar レーザーのレーザー血管形成術としての適合性: 蒸散性能
の比較検討。第12回日本レーザー医学会論文集、1991、pp. 333-336。

4) 林 琢也・他 : ブタ胃壁に対する Ho : YAG レーザー蒸散の基礎検討。第14回日本レーザー医学会論文
集、1993。(投稿中)

5) Yoshikiwa, M. et al. : The measurement of cavity collapse time by probe technique on water, agar, 
and vascular tissue during Ho : YAG laser contact ablation. Proc. SPIE. 1882 : 382-387, 1993.

6) Treat, M. R. et al. : Initial clinical experience with the THC : YAG laser in gastrointestinal endoscopy. 
Proc. SPIE. 1200 : 488-493, 1990.

7) Vari, S.G. et al. : Effects of pulsed mid-infrared lasers on bovine knee joint tissues. Proc. SPIE. 
1880 : 17-28, 1993.

8) Black, J. et al. : Percutaneous lumbar discectomy using Ho : YAG laser. Proc. SPIE. 1424 : 20-22, 
1991.

9) Johnson, D.E. et al. : Use of the holmium : YAG laser in urology. Lasers surg. med. 12 : 353-363, 
1992.

10) Kopchok, G. E. et al. : Holmium : YAG laser ablation of vascular tissue. Lasers Surg. Med.10 : 405-
413, 1990.

11) Thompson, V. M. et al. : Application of the holmium : YAG laser for refractive surgery : An update of 
clinical progress. Proc. SPIE. 1877 : 52-56, 1993.