1998年6月4日 

鼻内レーザー治療 
5.Ho:YAGレーザーの内視鏡下鼻内手術

池田勝久
東北大学医学部耳鼻咽喉科学教室  


はじめに
 内視鏡を用いた鼻腔経由の副鼻腔手術が慢性副鼻腔炎に広く適応されてきている 1)2)。近年のレーザー
手術の進歩により、内視鏡下副鼻腔手術においてもその応用が進んでいる。副鼻腔嚢胞の開放においても、
内視鏡手術が行われている 3) が、嚢胞が固有鼻腔と肥厚した骨によって隔絶されている場合は鼻内からの
開放は通常の鉗子では極めて困難である。同様に、下鼻甲介切除術において骨組織の切開は通常のハサミ
や鉗子では多量の出血が伴うことをしばしば経験する。また鼻内経由の涙嚢鼻腔吻合術でも比較的厚い涙
骨の切除に苦労することがある。これらを解決するために、近年臨床応用され始めた骨の吸収能に優れた 
Holmium:Yttrium Aluminum Garnet(Ho:YAG)レーザーの副鼻腔嚢胞開放術、下鼻甲介切除術、涙嚢鼻腔
吻合術(DCR)に対しての応用を述べる。 
Ho:YAGと他のレーザーとの比較
 これまでに鼻科領域で頻用されてきた4種のレーザーを対比する。 KTP/532レーザーではヘモグロビソや
メラニソなどの色素に吸収されやすく、Nd:YAGは暗色の組織、Ho:YAGとC02は水に吸収されやすい。 KTP
/532とNd:YAGは散乱係数が高いがHo:YAGとC02では組織障害の範囲がより少ない(表1)。 C02以外の
レーザーは優れた凝固能を持ち、Nd:YAG以外のレーザーは軟部組織に対する優れた蒸散能を持っている。 
Ho:YAGの際立った特長は骨組織に対する十分な蒸散能である(表2)。使用上の欠点として、KTP/532は
眼球保謹マスクを使用するので視界が悪くなり、C02レーザーは硬性ファイパーを用いるため操作性に劣る点
である(表3)。このような特長を良く理解して目的に応じた適切なレーザーを選択することが肝心である。
 

表1 各種レーザーの特性(1) 
Absorption Scattering 
Water  Chromophores
KTP Weak
Hemoglobin
Melanin
Large
Nd:YAG Weak
Dark-Colored
Tissue
Very Large
Ho:YAG  Strong (-)  Small 
CO2  Very Strong (-) Small
   
表2 各種レーザーの特性(2) 
Coagulation
Absorption 
Soft tissue Bone
KTP  Excellent  Good  Poor
Nd:YAG
Excellent
(using hot tips)
 Poor Poor
Ho:YAG Excellent Excellent  Good 
CO2 Poor Excellent  Poor 

表3 各種レーザーの特性(3) 
Eye Protection Guide Beam  Delivery System 
KTP  Necessary
(Orange/Red Tinted)
Unnecessary Flexible
Nd:YAG Necessary Unnecessary Flexible
Ho:YAG Optional Necessary Flexible
CO2 Necessary Necessary Rigid
   
Ho:YAGの特長
 Ho:YAGの光学的特長を表4に示す。 Ho:YAGレーザーはYAG母材の中に3価イオソであるHoを注入した固
体レーザーで石英ガラスファイバーで伝達可能な赤外光であり、KTP/532などと同様に操作性に優れてい
る。眼に照射した場合、網膜までは到達せず角膜の障害も及ぽさないため、眼球の保護が不用である。切開
用のC02レーザーと凝固用のNd:YAGレーザーの中間の生体作用を示す。接触照射によって発生した気泡が
周囲組織に張カをかけることにより切開がおこる。この水蒸気気泡によりレーザー先端の組織片が飛ばされ
て、接触先端の焦げ付きが発生しにくい利点がある。最も特徴的な点は軟部組織への照射だけでなく、骨組
織との反応性にも富んでいることである。これは硬組織の水分がレーザーにより水蒸気気泡となり組織の断
裂が生じるためである。適正な蒸散により周囲組織の熱損傷も少ない。したがって、Ho:YAGレーザーは骨組
織を含んだ手術への応用が第一選択と考えられる。以上の臨床応用に関する特長を表5にまとめた。 

表4 Ho:YAGレーザーの光学的特長 
発振波長 2.1μm 
光侵達長 〜0.5mm
発振波形 多数のスパイク状波型が集合した幅200〜250μS程度のパルス
設定条件
 8パルス/秒
1.0ジュール 
 
表5 Ho:YAGレーザーの臨床的特徴 
1)石英ガラスファイバーで伝送可能:優れた操作性
2)眼球保護の不用:良好な視野の獲得
3)強く安定した切開能 
4)硬組織(骨)への切開
 
Ho:YAGレーザーの鼻副鼻腔手術への応用
 既に一般外科、関節鏡下手術、泌尿器科手術への臨床応用が始められている。図1はHo:YAGレーザー治
寮器の1例を示す。鼻副鼻腔手術に対しては先に述べた特長を生かすために、表6に示すような疾患が適応
症となる。特に、DCRに対しては既に詳細な報告がある3)。以上の疾患全例において重大な副損傷なく下鼻
甲介切除と骨性嚢胞壁の蒸散による開放に成功した。また涙嚢鼻腔吻合術も極めて簡便に施行が可能で眼
球への障害も認めなかった。全例において少量の出血で手術を終えることができた4)。 

図1 Ho:YAGレーザー治療器の1例(Coherent社製)
 
表6 適応疾患 
1)下甲介切除術
2)骨性嚢胞壁開放術 
3)涙嚢鼻腔吻合術 
 
副作用と注意点
 鼻科領域では動物や屍体をもちいた実験5〕で、鼻および副鼻腔の良好な止血、軟部と骨組織の蒸散が得
られた。また組織治癒過程において、蒸散された組織はやや遅れるものの完全な上皮化が証明されている。
今回の臨床例でも嚢胞壁の上皮化は照射後約1から2ヵ月後に全例に認められた。一方、犬の実験では副作
用として甲介切除の際に鼻中隔の瘢痕と穿孔が認められている。この原因としてレーザーのファイバーによる
物理的接触、レーザー光の分散、レーザー光の甲介を介した反射などによる損傷が考えられている。今回の
臨床結果では、下鼻甲介への照射で熱によると考えられる鼻中隔の黒色変化が認められたものの、術後に
はすみやかに消失した。下鼻道外側壁の蒸散に際しては、正確なレーザー照射の操作により、鼻涙管への
影響は全く認めなかった。しかしながら、組織片や血液がレーザーにより飛ぽされ、内視鏡先端に付着し、視
界の妨げとなることがあり、可能な限り内視鏡をレーザー照射野から離すことが円滑な手術に必要である。

まとめ
1)Ho:YAGレーザーを内視鏡下鼻副鼻腔手術に導入し、その適応について検討した。
2)骨組織への良好な吸収能、操作性、安全性などの特徴を生かし、 Ho:YAGを用いた内視鏡下鼻内副鼻腔
手術には下鼻甲介切除術、嚢胞開放術、涙嚢鼻腔吻合術において適応になる。
3)術中、術後に副作用はなく、安全に確実に鼻内からの副鼻腔手術の応用が可能である。

参考文献

1)Kennedy DW,Zinreich SJ Rosenbaum AE,et al:Functional endoscopic sinus surgery: theory and 
diagnostic evaluation.Arch Otolaryngol 111:576〜582, 1985.

2)Stammberger H:Endoscopic endonasal surgery-concepts in treatment of recurring rhinosinusitis.
Part1,Anatomic and pathophysiologic considerations,0tolaryngol Head Neck Surg 94:143〜147, 1986.

3)Metson R,Woog JJ and Puliafito CA:Endoscopic laser dacryocystorhinostomy. Laryngoscope 104:
269〜274, 1994.

4)池田勝久、大島猛史、鈴木秀明、他:Ho:YAGレーザーと内視鏡下鼻内手術. 耳鼻臨床88: 1427〜
1431, 1995.

5)Shapshay SM,Rebeiz EE,Bohigian RK,et al :Holmium:yttrium aluminum garnet laser− assisted 
endoscopic sinus surgery laboratory experience. Laryngoscope 101:142〜149.1991