■耳鼻咽喉科学

 
最終更新日:1998年6月4日 
 ■文献■
 
 「Ho:YAGレーザーの内視鏡下鼻内手術」 池田 勝久

外来レーザー手術症例の検討
防衛医科大学校耳鼻咽喉科学講座
田部哲也、中之坊学、松永毅、
小倉雅実、北原哲 

日本大学病院耳鼻咽喉科学教室
茂木立学、木田亮紀、亀谷隆一、
鯵坂 涼、島崎奈保子、牧山 清、
久松健一




1998年4月1日 

日本鼻科学学会会誌 

14 Holmium:YAGレーザーの内視鏡下鼻内手術への応用

東北大学耳鼻咽喉科
池田勝久、稲村直樹、鈴木秀明、大島猛史、香取幸夫、平野浩二、下村明、高坂知節
 
 <目的>

近年、慢性副鼻腔炎の外科的治療として内視鏡を用いた鼻内及び副鼻腔手術が確立した。更に、他の鼻副
鼻腔疾患においても内視鏡下鼻内手術の応用が進んでいる。上顎洞や前頭洞嚢腫の閉放においても、本術
式が適応されているが、嚢腫が固有鼻腔と骨性に隔絶されている場合は鼻内からの開放は極めて困難であ
る。 Holmium:Yttrium Aluminium Garnet(Ho:YAG)レーザーは骨組織の蒸散が可能であり、固有鼻腔と
骨性に閉塞している嚢胞性疾患の内視鏡を用いての鼻内からの開放に有用であったので、術式、術後経過
をビデオにて供覧する。

 
 Ho:YAGレーザーの使用法

Ho:YAGレーザーは2.1μmの波長を有する不可視光である。レーザー光線は可曲性のケーブルを通じて0度
の角度のハンドピースによって照射される。 Ho:YAGレーザー光線の軟部組織における凝固の深達度は400
μm、切開では200μmである。今回の鼻内の骨組織の蒸散は主として1.0J、8パルス/秒の設定にて使用し
た。
 従来のレーザーの鼻科領域での使用における欠点として、 C02レーザーは水や血液に吸収されやすく止血
効果に難があり、また骨蒸散能に乏しい。 Nd:YAGレーザーはその深達度が一定ではなく骨蒸散能も乏し
い。また接触型であるため軟部組織と粘着しやすい。 KTP/532レーザーはC02レーザーよりも凝固能に優
れ、 Nd:YAGレーザーよりも切開能に優れている。しかしながら、緑の可視光のためヘモグロピンにより吸収
され出血巣への使用に制限が生じ、眼球保護マスクを使用するので視界が悪くなる。また、骨との反応性が
乏しい。その反面、 Ho:YAGレーザーは眼球の保護が不用であり、骨との反応性に富んでおり、止血、凝固
能も優れている。また、晩発性の組織傷害も少ない。 
 症例 左側術後性上顎性嚢腫、64歳、男性
約40年前に両側のCaldwell_Luc手術を施行した。数年前より左側の頬部痛が時々生じ、軽度の頬部腫脹を
認めた。固有鼻腔との境昇(下鼻道外側壁)は厚い骨組織によって隔離されていた。
 全身麻酔下にて手術を施行した。下鼻甲介の前部及び中部をHo:YAGレーザーにて切開、蒸散し良好な視
野を得た。次に下鼻甲介外側壁もHo:YAGレーザーにて照射し、軟部及び骨組織を蒸散し嚢腫内に到達し
た。嚢腫内には極めて粘稠な貯留液を認めた。さらに、開放口をレーザーにて拡大し十分な交通路を碗認し、
手術を終了した。全操作中、出血ほほとんど認めなかった。

 症例の解析

1994年5月までに骨性に閉塞した前頭洞嚢包1症例、上顎洞嚢胞4症例にHo:YAGレーザーを使用し、全例に
おいて重大な副損傷なく骨組織の蒸散に成功した。

結論

Ho:YAGレーザーは優れた止血能、凝固能、骨反応性が長所であり、鼻副鼻腔疾患の手術においては、下鼻
甲介の切除、骨性に閉塞された副鼻腔の嚢胞性病変の開放に極めて有用であり、本レーーザ手術の適応と
なることが判明した。